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大阪地方裁判所 昭和49年(わ)897号 判決 1974年9月11日

主文

被告人を懲役一〇月に処する。

未決勾留日数中二〇日を右刑に算入する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は法定の除外事由がないのに、昭和四九年四月一三日午後三時ころ大阪市天王寺区生玉町五二番地ホテル葵御苑五階ルビーの間において、

第一、フエニルメチルアミノプロパン塩類を含有する覚せい剤粉末三〇・四四三グラムを所持し、

第二、同じく覚せい剤粉末耳かき一杯位を水に溶かし自己の身体に注射して使用したものである。

(証拠の標目)≪省略≫

(累犯前科)

被告人は(1)昭和三九年五月一四日神戸地裁尼崎支部で恐喝罪、覚せい剤取締法違反等により懲役二年、執行猶予五年に処せられたが、その猶予期間中に恐喝罪等を犯して昭和四〇年一二月一六日大阪地方裁判所で懲役一年六月に処せられたため、右執行猶予を取消され、昭和四五年五月二五日その刑の執行を受け終った。(2)昭和四〇年一二月一六日大阪地方裁判所で恐喝罪により懲役一年六月および懲役一年に処せられ(昭和四一年二月二八日確定)、右一年六月の刑は昭和四二年五月二九日に、一年の刑は昭和四三年五月二五日にそれぞれその執行を受け終った。(3)昭和四七年三月七日大阪簡易裁判所で窃盗罪により懲役一年六月に処せられ、昭和四八年七月五日右刑の執行を受け終わった。以上の事実は≪証拠省略≫によってこれを認める。

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、本件逮捕が最初別人に対する逮捕状で執行され、人違いであることが判明した時点で警察は被告人を現行犯逮捕したものであるが、この逮捕の段階では押収した物が覚せい剤であるか否か疑わしいのであるから、現行犯逮捕の要件を欠くもので、違法な手続きによる逮捕である。(弁護人としては、本件の場合、緊急逮捕の手続によるべきであったと主張する)従って、本件逮捕の際押収した覚せい剤及びその鑑定書は、違法な手続により収集された証拠であるから弁護人の同意があって、証拠調が行われたとしても、判決の事実認定の証拠資料として採用できないものであると主張する。

ところで、≪証拠省略≫によれば、本件逮捕の状況はの次のとおりであることが認められる。

大阪府生野警察署司法巡査矢谷博司他四名は、かねて通報を依頼していたホテル葵御苑の専務浜口忠男から、手配中の被疑者Kが立寄っているとの通報を得、右Kに対する逮捕状を携えて、同ホテル五階ルビーの間に急行した。右通報は、Kと被告人Hを人違いをしていたものであるが、矢谷巡査らが右部屋に入ったとき、部屋の状況はT子が鏡台に向って化粧中で、ソファーには太ったSとその左側に手配中のKと似ていたHが坐っており、飛込んできた巡査をみて慌てて身づくろいをした。テーブルの上には、注射器、水の入ったコップ、携帯用秤が放置されていた。右巡査が、被告人に対し氏名を尋ねたところ、同人は左脇下に茶色の封筒を隠そうとして床に落した。そこで、「それは何か」と尋ねると同人は「もう、どうでもしてくれ」と云って、封筒の中味の検査を容認したので調べると七センチ四方位のナイロン袋に入れた白色粉末が見つかり、一見して覚せい剤と思われた。矢口巡査が被告人に対し「これはシャブではないか」と問い質したが、同人は「俺は知らん」と否認した。しかし同人の腕第二関節辺りに無数の注射痕が発見され、同人をその場に立たせたところ、ふらふらした状態であった。この被告人に対する質問中、Sが落ちつかなく、テレビの方に目を向けるので、そのテレビの辺りを捜索すると、テレビの上の飾り衝立の下に隠匿していた紙に包んだナイロン袋入りの白色粉末を発見し、これを押収した。そして、矢口巡査らは、Sおよび被告人を覚せい剤所持の現行犯として逮捕した。

右認定の事実関係からすれば、弁護人の主張するように、白粉末の存在だけでは覚せい剤取締法違反の罪で現行犯逮捕するに足るだけの嫌疑があったものということはできないが、右に述べたように、テーブルの上に、注射器と水の入ったコップがあり、被告人は腕の第二関節辺に無数の注射痕のあることが認められ、その場に立たせても、ふらふらしている有様であったことから、同人が左脇下に隠そうとして失敗して床に落した白粉末が、覚せい剤であると推断することは、白粉末の鑑定を持つまでもなく合理的にして正当なものであると考えられる。従って、被告人が覚せい剤を所持しているということから、現に罪を行っている者として逮捕した本件現行犯逮捕は、法の定める要件を何ら欠くものでないものと考える。よって弁護人の右の主張をとることはできない。

もっとも右のように現行犯逮捕の要件はあっても、当初は誤認により別件の逮捕状に基く執行をしているのであるが、その後間もなく誤認であることに気づいて本件現行犯逮捕に切り替えているのであり、この程度の瑕疵は未だ本件逮捕手続全体をとらえて違法とするまでのものではないと考える。

(法令の適用)

判示第一の事実について

覚せい剤取締法違反 四一条の二第一項一号 同法一四条一項、

判示第二の事実について

同法四一条の二第一項三号、同法一九条。

併合罪加重について

刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の重い四一条の二第一項一号の刑に法定の加重をする)

三犯の加重につき

同法五九条、五六条一項、五七条、

未決勾留日数の算入につき

同法二一条

(裁判官 島田仁郎)

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